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強皮症/皮膚筋炎及び多発性筋炎について

1. 多発性筋炎・皮膚筋炎とは

多発性筋炎・皮膚筋炎は筋肉の炎症により、筋肉に力が入りにくくなったり、疲れやすくなったり、痛んだりする病気です。また、手指の関節背側の表面ががさがさとして盛り上がった紅斑(ゴットロン丘疹)、肘関節や膝関節外側のがさがさした紅斑(ゴットロン徴候)、上眼瞼の腫れぼったい紅斑(ヘリオトロープ疹)などの特徴的な皮膚症状がある場合は、皮膚筋炎と呼ばれます。なお、ゴットロンは医学者の名前、ヘリオトロープは紫色の花を付ける可憐な植物の名前ですが、日本人のヘリオトロープ疹が紫色になることは殆どありません。

この病気は、膠原病と呼ばれる病気に含まれます。膠原病には、多発性筋炎・皮膚筋炎以外に、関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、強皮症、結節性多発動脈炎などの血管炎やリウマチ熱が含まれます。そもそも、心臓病とか肝臓病とかいう言葉と違い、膠原病というのはわかりにくい言葉です。昔、肉眼や顕微鏡による内臓組織の観察を行う病理学が進歩しつつあった時代、色々な病気の症状が特定の内臓の障害によってもたらされることがわかってきた時がありました。しかし、膠原病に属する病気は、色々な内臓に障害があり、不調の原因となっている臓器を特定することができませんでした。しかし、クレンペラーと呼ばれる病理学者は、顕微鏡観察の結果、皮膚を含む様々な場所のコラーゲン線維に異常があることを見出しました。コラーゲンと膠原は同じです。そこで、これらの病気は、コラーゲンの異常だろうと判断されて膠原病と総称されるようになりました。でも、現在では、後で述べるとおり、自分の臓器に免疫反応が起きていることが原因とわかっています。

多発性筋炎・皮膚筋炎でも、他の膠原病と同じく、筋肉と皮膚の症状以外にも様々な症状が現れます。関節痛は頻度が高く、そのため、リウマチ性疾患に含められることもあります。その他、肺も症状を起こしやすい臓器です。
なお、神経内科医は、多発性筋炎ではなく、多発筋炎と呼ぶこともありますが、同じ病気です。

2. この病気の原因はわかっているのですか

免疫は、病原微生物を退治して身を守るための防御システムですが、膠原病ではこれが自らの臓器を標的としてしまっています。自己免疫と呼ばれる状態です。多発性気炎・皮膚筋炎では、筋肉や皮膚などを、免疫力が攻撃しているのが原因です。自己免疫は、いわば、軍隊の「友軍攻撃」ですが、なぜ、そのようなことがおきるのかは明らかではありません。生まれ持った体質に微生物感染などの外からの出来事が加わって発症するものと考えられています。

4. この病気にはどのような治療法がありますか

治療は薬物療法が中心です。ただし、個々の症例毎に最良の治療法は異なりますので、主治医の指示通りに規則正しく服薬することが大事です。日常生活では、治療開始時は安静が必要ですが、回復が始まってからはリハビリも必要です。しかし、過度の運動は筋障害を悪化させる可能性もあり一定の見解はありません。治療により筋炎が収まってきたら疲れない程度に運動をするのが良いようです。食事は、バランス良く栄養をとることを心がけるべきですが、薬の副作用による食欲亢進に任せることは避けるべきです。皮膚症状には、日光などの紫外線あたることを最小限にするようにします。薬物は、主に副腎皮質ステロイド薬(ステロイド)が使用されます。一般に高用量ステロイド療法(体重1kgあたりプレドニゾロン換算で1mg/日)が4週間程度行われ、検査所見や皮膚所見、筋力回復をみて有効な場合には減量し、数カ月かけて維持量にまで減量されるのが典型的です。重症例には、メチルプレドニゾロン0.5ないし1mgの点滴静注を3日間行うステロイドパルス療法を併用することもあります。
ステロイドは、副腎皮質から分泌されるホルモンで、薬剤はこれに似た効果のあるものを化学合成したものです。健常人では、一日にプレドニゾロン換算で2-5mgのステロイドが分泌されています。本来の役割は、身体に対するストレスに対する抵抗力を与えるホルモンです。第二次世界大戦中にドイツで兵士が過酷な状況(ストレス)に耐えられるようになる薬として開発されていたそうです。実は、炎症もストレス反応のひとつなのでステロイドを服用すると炎症が抑えられるわけです。
しかし、これを沢山しかも長期間服用していると様々なことを引き起こすことがわかりました。免疫力低下(易感染性)、糖尿病、胃潰瘍、精神変調、筋萎縮(ステロイド筋症)、白内障や緑内障、血栓症、骨粗鬆症、食欲亢進などです。このうち、免疫力を低下させる作用は、免疫力が過剰なために自己免疫が起きてしまっている多発性筋炎・皮膚筋炎の治療には好都合です。高用量ステロイド療法は、炎症を収め、しかも原因となる免疫力も抑える作用もあり、一石二鳥の治療法です。
ステロイドは、初めは治療効果を重視して一日3分割服用とし、減量中は副作用軽減を目的として朝に多くなるように工夫します。急速に減量すると再燃をおこすことがあります。一般に、筋力の回復は発病後間もなく筋力低下の強くない方ほど良好です。
しかし、ステロイド療法が無効の場合、減量によって再燃が認められる場合、前述のステロイドのさまざまな作用が副作用として問題になってしまう場合などには、ステロイドを減量して免疫抑制薬を併用します。ステロイドは、ステロイド筋症を起こすので、治療による筋力回復とは逆に働きます。その他にも様々な副作用が必発のため、ステロイドの使用量を減らすためにも免疫抑制薬が併用されています。
現在、保険で認可されている免疫抑制薬は、アザチオプリン(イムラン、アザニン)、シクロフォスファミド(エンドキサン)のみです。シクロフォスファミドは、強力な免疫抑制作用が魅力ですが、卵巣機能不全を招いたり、長期使用で発がん性が問題となっていることもあり、欧米では殆ど使われていません。保険適用外ながら、代わってよく使われているのは、メトトレキサートやシクロスポリンA(ネオーラル)、タクロリムス(プログラフ)です。海外では、ミコフェノレートも用いられます。ただし、メトトレキサートは、副作用として間質性肺炎を起こすことがあるので、元々、間質性肺炎を合併している症例では使用しません。
皮膚症状には、局所ステロイド薬治療が優先されます。指尖にひび割れを伴うような痛みのある皮疹には、テープ薬により皮膚保護を兼ねることも出来ます。それでも効かない場合には、保険適用外ながらタクロリムス(プロトピック)軟膏が試されます。
ユニークな治療法に、免疫グロブリン大量静注療法があります。ステロイド抵抗性の症例に保険適用のあるこの治療法によって、急激に筋炎を改善させることができる場合があります。しかし、効果は一時的なので、他の治療法も併用して病気の活動性を抑える必要があります。
なお、合併症で急速進行性の間質性肺炎がある場合には、初期治療からステロイドに加えて免疫抑制薬を併用することが必要です。この場合は、タクロリムスないしシクロスポリンAが使用され、必要に応じてシクロフォスファミドも併用されます。悪性腫瘍が合併する場合、悪性腫瘍が存在する限り筋や皮膚症状が改善しにくく、その改善のためには積極的に悪性腫瘍の治療を進めなくてはなりません。

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